エネ庁 原子力サプライチェーン維持・強化
経産省エネ庁は、原子力イノベーションの創出に向けて、技術開発、研究開発基盤の供用と共に、人材育成・産業基盤の強化を推進する。将来にわたって原子力を安全・安定的に活用していけるよう、現下の状況でも戦略的に産業・サプライチェーンを維持するため、技術・人材の状況分析を進め、その結果を踏まえて、供給途絶の危機にある高い技術・サービスの継承や、デジタル技術の活用などを通じた品質マネジメントの負担軽減といった、技術・人材維持の取り組みを支援。昨年度に続き今年度予算でも、産業基盤強化事業として12・5億円を確保し、原子力利用を支えるサプライチェーンをはじめ、原子力安全の最前線を担う人材育成の強化を目指す。また、諸外国のサプライチェーンに対する支援策も参考に、規格認証取得、案件マッチングなどを通じて、世界トップクラスの実績を有するメーカー・サプライヤによる新規事業開拓を後押しする考え。
多くのサプライヤや建設事業者などに支えられ、年間1兆円規模の巨大なサプライチェーンを構築する原子力産業は、高度な品質管理が求められ、国産化率90%以上と国内技術が集積されている。同庁はこのほど、30年の原子力比率20~22%の達成に向けて、原子力政策の課題と対応の方向性を原子力小委員会に提示。このうち原子力人材・技術・産業基盤の維持・強化について、新型コロナウイルスの拡大によって、様々な産業分野でサプライチェーンの国内回帰が検討されており、原子力産業は約1000万個の部品点数といった、電力の安定供給を担うサプライチェーンを国内に持つ強みがあることを改めて強調した。
11年の東日本大震災以降、原子力が長期稼働停止となる中で、電力による原子力関係支出は減少したが、近年は既設プラントの再稼働に向けた安全対策工事により回復傾向にある。一方で、一部のサプライヤは市場の見通しが見えず、収益が大幅に減少する厳しい状況が続いており、原子力事業からの撤退などによるサプライチェーンの劣化が懸念されている。原子力に関わる人材についても依然減少傾向にあり、プラント保守・点検においては、稼働プラントの運転・保守作業の機会が減少し、技術作業員の維持が困難になるメーカーもあり、電力は人員の融通や研修などにより、再稼働に備えて技術力を維持しているのが実情だ。
海外でも、長期間にわたり原子力の建設が無かった米国やフランスでは、原子力サプライチェーンが弱体化。近年の新設案件では建設遅延やコスト増加が発生し、未だ運開に至っていない。こうした事態が発生した原因について仏政府は「新規着工の無い15年間の間に仏電力EDFのプロジェクトマネジメント能力や部品メーカーの製造能力が低下し、特に溶接の技術や人材を喪失した」と分析。20年経済対策で、溶接技術センターの設立など原子力分野に4.7億ユーロと600億円を超える大型予算を計上している。