環境省 ダムなどでのクマ害防止で実態調査
ダムや水力など、山間部の電力施設の周辺でクマの発見報告が相次いでいる。今年は記録的な高温が全国レベルで今月まで続いたことから、本州に生息するツキノワグマ(以下クマ)のエサとなるドングリ(ブナの実)が凶作で、そのため「餌を求めて生活圏を変えたことで人間との接触機会が増えている」(農水省林野庁)という。既報のように今年8月に、東北電力の上北変電所、Jパワーの上北変換所が立地する青森県東北町でクマの出没が相次いだことから、町は両社の社員を含む地域住民に注意を呼び掛ける防災活動を行った。また同月、北陸電力が富山県・市との官民共同で運営する自然公園「有峰森林文化村」でも、クマの出没が続いたことから同社は、管理する人気スポットの折立キャンプ場を閉鎖して、万一の事態に備えている。
北海道に生息するヒグマと違い、植物を主食とするツキノワグマは、体長120~180cm、体重50~120kgと比較的小型で、従来は山間地での業務履行者にとって「リスク対象」とはならなかった。しかし、前述の温暖化や異常気象に伴うエサの恒常的な不足、ハンターの高齢化などにより「今後も今年のようにクマとの接触機会は頻繁化する」(日本ツキノワグマ研究所)と、専門家は指摘する。
環境省が今月1日に発表した速報値によると、今年4~10月に全国でクマに襲われた被害者は計180人に上り、06年に同統計を開始して以来最多となった。このうち死亡者数は5人を数え、大きなリスクとなっている。こうした背景から電力各社は、山間部に設けているダムや水力などの施設付帯型広報施設の休館や「環境学習の場」として一般に開放している社有管理地の使用禁止―などの措置を行うと共に、社員に対しても、注意の喚起や、野外活動における野生獣を対象にした対応マニュアル(社有車から降りる際のクラクションの励行、人の存在を知らせる鈴やラジオ、クマ用撃退スプレーの携行、クマの糞や採食した痕跡の確認など)の順守を徹底しており、幸いなことに人身事故は発生していない。さらに、こうしたリスクに対応して北陸電と北陸電送配電は、クマの出没が確認された地域などで「クマによる人身被害を防ぐために」と題する啓発チラシを配布。具体的に「クマから身を守るための装備」や「クマに遭遇しないためのノウハウ」、「万一クマを目撃、または遭遇してしまった場合の対象方法」などについて、イラストで分かりやすく解説する防災活動を展開している。
さらに北陸電の新価値創造研究所が「AIによるクマ出没・通報システム」の試作機を開発し、富山県との共同実証実験を経て現在、複数の自治体に納入して効果を上げている。同システムは、クマなど野生獣の大量の画像データを学習させたAI用小型パソコンで、対象地の周辺の樹木などに取り付けた通信機能付きカメラの画像から送られるデータに基づき、クマの出現を自動で検出して通報するもので、汎用性が高いことから普及の拡大が期待されている。なお、クマによる人身被害の多発を受けて環境省は、10日に閣議決定された補正予算案に「人間の生活圏に出没するクマの調査」などの対策費として7300万円を計上。「被害を防ぐ方法を検討するためのデータを得る」(同省)ため、クマが冬眠する巣穴の調査を行うほか、出没頻度が高い個体の把握なども行う。調査場所や方法は、都道府県からの要請に応じて検討する考えだ。クマは11月後半~12月に冬眠し始めるため、来年の出没に備えて万全の対応を進める。